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2012年12月8日土曜日

9. 少し悔しそうに見えたこの男に、情を覚えた。



 その時、ウィーンのPCが小さな電子音を鳴らし、突然画面が切り替わった。
「館内アナウンスだ」
ウィーンが本体を操作し、画面を見やすい位置へとスライドさせる。

【こんにちは。こちらオリジンサイエンス・トップキャビネットです】

「トップキャビネット?オリジンの各分野で1番権威をもつ組織だ。一体何が・・・?」
ウィーンは、興奮とも怯えともつかない顔をしていた。画面には、二重丸にSの紋章―――サイエンストップキャビネットのシンボルだろう―――と、字幕が映し出される。

【ただ今、サイエンストップキャビネット・特殊事項管理部は、セントロ内にて、異常な磁気を検知しました。キャビネットでは、これを危険因子と判断し、早急に原因を追及する次第であります。さらなる情報次第では、GPSでの取り締まりをもいとわないという方針です。皆様の注意を喚起いたしますことよろしくお願いいたします】

音声が流れ終わると、映像は静かな音を立て、手首のデバイスにしまわれた。

「異常な磁気・・・」
ウィーンはあごに片手をやり、考えるしぐさをした。
「もしかして、ビンゴ?」
ロジは言った。
「だとしたら僕たちは”ラッキー”だね・・・仮説は正しかったのかもしれない」
画面型PCには、3次元のグラフがうつしだされた。
「これは、簡易的な磁気系だ。簡単な磁気の乱れを見ることができ、GPSを使わないナビゲーションにも応用できる」
画面はズームアップが繰り返され、一つのエリアがうつしだされた。
「ここが、この研究館の全体図だ。そしてここが―――」
さらにズームされる。
「僕たちがいる部屋周辺だ」
中心には、部屋ととれる四角いエリア、エリア内部には、ちょうどこの部屋の配置と一致するように、磁気の乱れが生じているのがわかる。
「この磁気反応が僕、そしてこれが君のものだ」
部屋の、ウィーンがいる位置に、磁気の波が生じているのがわかり、その隣、ロジの場所にも、同じような磁気があった。しかし、ロジの周りには、わずかではあるが、小さな波が出来たり消えたりしているのを確認することができた。
「かすかだな」
それを見てウィーンは言った。
「かすかだが、まぎれもなく磁気の乱れだ。だが心配しなくていい。この程度の磁気の乱れなら、研究館ではしょっちゅう起こっていることだし、彼らが君のことを見つける可能性は限りなく0だ」
「おそらく、セントロを回っている時に、どこかで探知されてしまったのだろう。もしくは、時間がたったことで、君の不安定だった磁気が安定したと考えてもいい」


電子音が鳴り響く。部屋の呼び鈴が音を立てたようだ。2人は顔を見合わせた。ゲストの顔が画面型PCに映し出される。青い制服を着た、背の高い2人組だ。
「突然の訪問失礼。トップキャビネット・特殊事項管理部だ。先ほどのアナウンスの為、微小な磁気のズレであっても、安全のため、確認に回っている―――」
「今それどころじゃないんだ。出直して来てくれないか?すまない」
「なにをしている?簡単な確認で済む。扉を開けてくれれば良い」
「何をしているかと言われれば、次の研究発表へのレポート作成中だ。本当にこの実験が最後の詰めなんだ。どんな誤差も出したくない。出直して来てくれ。頼む」
1人が、もう片方に何か囁くと、
「了解した。目的は簡単なチェックの為、ここへはもう来ることはないが、怪しい行動は特殊管理部からの厳重注意が行く。慎むよう。健闘を祈る」
そういうと2人は去っていった。

「危なかった・・・」
ウィーンは気を抜いているようだった。
「ありがとう。助かった」
「いや、助かったのは僕も同じさ。それに、同じようなこと言うやつは、この研究館にごろごろいるはずだしね。何せ変人の集まりだ。それにしても、連中のこの反応はなんだ・・・。こんなかすかな磁気の乱れくらいで、いくらなんでも騒ぎすぎじゃないのか・・・?」
「やっぱり、仲間を呼ぶのは無理がありそうだね」
「・・・」
少し悔しそうに見えたこの男に、ロジは情を覚えた。


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