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2012年12月19日水曜日

17. 登る男


そこでは、10何人かの軽い人だかりができていて、画面には、どうやら、騒ぎの中心となる場所が映し出されていた。

現場は統合ワープシステムのようで、セキュリティキャビネットが、その一部を囲うようにして配置されている。少なくはない人数である。

さらには、飛行車(空中を浮遊できる車)や、その他飛行型ロボやサイボーグも出動しているようで、事態は大きいように見えた。

「世の中には、頭のおかしいやつがいるんですね」

アリがいった。

「いったい何が起こっているんだ?」

うおお、と歓声が起こった、ひやひやしているものもいれば、にやにやと笑い、面白がっているものもいるようだ。画面には、ワープシステムはるか上部が映し出される。

そこに映っていたのは、横と縦にのびる柱から柱へ、飛び交うロボやサイボーグを華麗によけながら、壁をよじ登る何かであり―――少なくともオリジンであることはわかった。

とはいえ、遠目から見ているだけで、並ではない運動神経・身体能力の持ち主であるとわかり、こんな動きは一生に一度見たことがあるかないかだとウィーンは思った。

「もう3合目くらいまで登ってるんじゃないのか?どうなっている」

体格の大きい男が面白がって笑った。

「セキュリティに捕まるのがオチだろ・・・」

「危険すぎる・・・なにをするつもりなんだ・・・」

そこにいるものは、ただその男の動きに見とれていた。柱から柱へ、蜘蛛のように飛び移り、くるくると素早いロボットたちの攻撃から身を逃れる。

一つのパフォーマンスのようであった。

ロボや飛行車は、どれもレーザーを放っているが、全てのレーザーは彼に当たることはなく、鏡のような外壁に反射されていた(“あの壁、材質はなんだ”一人の科学者が叫んでいた)。

画面下には説明が映っている(“謎の男、ワープシステムを登る。セントロへ注意喚起”)。

何が目的なのかウィーンにもわからなかったが、ただその男の動きを見ていた。そのとき、1台の車が彼へと急接近し、レーザーを放とうとする。

が、彼はその一瞬で、宙へと蜻蛉返りをし、車へと飛び乗ると、それを踏み台にするようにしてジャンプした。

車はバランスを失い、一時下降する。


歓声が上がった。


カメラが切り替わり、男の顔が映る。


カメラは、1センチほどの球体に羽根が付いた、飛行型のカメラによって撮影されている。今や家庭でも使用されており、個人を認識し、対象を追い続けて飛び回るという、悪用されかねない代物である。 


しかし、そんなことはどうでもよかった。


何かを狙っているかのような表情をし、車を一瞥した後、彼は再び、ロボをよけながら進む―――ロジ。

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2012年12月18日火曜日

16. アリ



仕事を終え、ウィーンは部屋に戻っていた。ロジの姿はなかったが、最近では珍しいことではないので、気に止めなかった。 

 「どうしたじゃないですよ!」

画面に映し出された青年が、先ほどの女子学生と同じ言葉を口にする。 

ウィーンは、コーヒーを入れつつ、PCを操作し、ドアを開けてやった。

「ウィーンさん、あなた、また面倒事を僕に押しつけたでしょう」

入ってくるなり青年はそんなことを言う(“コーヒーなんて飲んでないで!”とどやされるがウィーンはテーブルに着いた)。

「ん?」

彼の名前はアリ、先ほどの学生を向かわせた研究室の準教授であった。

「あれの所為で、4時間も議論攻めですよ。最近の学生は、勉強熱心なのかバカなのか・・・」
「はは。そういうことを言うもんじゃないよ」
「そう言うなら自分で相手すればよかったじゃないですか!」
「すまない。少し夢中になっていることがあってね」

アリはため息をつくと、椅子に座る。

「コーヒー飲むかい?」
そういい、新しいコップへとコーヒーをつぐ。
「ありがとうございます」
いまいち気が乗らないような声で返事をする。

「それはそうと、外で何か騒ぎがあるみたいです」

一口飲むと、一瞬前の表情をころっと変え、彼は、興味のある話題を話す。一緒に研究をした時もそうだったが、何があろうと、すぐさま新しい好奇心へと向かうところが、ウィーンは好きだった。

「騒ぎ?」

「はい。セキュリティトップキャビネットも街に出てるみたいです」

「町って、セントロのことかい?それは珍しいね。何年ぶりだい」

セントロにはトップキャビネット各分野の本部が在しているため、ほとんど犯罪は起きない。オリジンの中核を担うトップキャビネットの眼下で、裏をかこうという勇者は到底現れないのであった。

「セキュリティもびっくりですよね。結構あわててるみたいです」

「いったい何が起きてるんだい?」

「それは―――」

不意に、どよめきを伴う人の声を、つけたままのインターホンが拾う。―――あいつ、何考えてるんだ―――たいへんなことになってるぞ―――おもしれえ、もっとやれ―――。

「例の騒ぎと言うことか?」
「行ってみましょうか」

2人は、ソーシャルスペースへと向かった。

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2012年12月17日月曜日

15. 見えない頂上には何があるのか。



ロジは外に出ていた。 

2週間ほどたったが、オリジンの世界を見るのに飽きることはなかった。セントロは、整然と区画されているわけではないが、ごちゃごちゃした印象はまるでなく、それでいて、洗練されたものばかりが並んでいるというのが、ロジの目にも分かった。

研究館も、ほかに引けを取らないクオリティの高さだ。館内には、ほぼオールジャンルをカバーする研究施設があり、さらに、現在に至るまで全ての科学データベースもここにあった。外観は、シンプルだが、壮観といってもよく、巨大で、まぶしいグレーの壁が印象的だ。

巨大さを強調するものは多かった。

例えば、音楽館というところでは、巨大なオリジンが巨大な楽器を演奏する。もちろん、ホログラフィを使った3D映像なのだが、近くに行くまでは本物としか思えないほどリアルなのだ。他にも、料理や建築、古代語学などの施設があり、中には、"金魚すくい"などという、マニアックなものも数多く存在したが、どれも外観だけでレベルの高さを見て取れた。

ぶらぶらと、分からないものを調べつつ、街を散策していた。大体のものは、写真を撮ると、画面型PCが認識し、正式名称と、対象物が何であるかを教えてくれる。ちなみに、ワープシステムのおかげで、移動するのに苦労することはない。どれだけ離れているところへも、そこら中にあるワープによって、行きたいところを選択し、一瞬でたどり着くとこができるのだった。

入口のない大きな建物がある。セントロの中心、つまり、オリジン・ランドの中心部だった。

それは、山のように大きく、遠くからでしかその全体を見ることは不可能だ。

巨大な円錐―――正確には、多角錐――――の形をしており、ガラスのような素材でできているが、中を見ることは不可能で、代わりに、空や街が映っているので、鏡に近い素材なのかもしれない。

頂点から、多角錐の角に沿い、黒く丈夫そうな柱のようなものが通っている。近づくと、横に広がる端は見えるか見えないほどでしか確認することができず、”縦”にいたっては、頂上を見ることはできない。

太陽の光がキラキラとあたり、綺麗だった。

ロジは、オリジン統合ワープシステムの前にいた。 

何度もここへ来た。ウィルダネスにいたころ、唯一の資源だと思い込んでいた、ナチュラルリソースが転送される場所、そして、ウィルダネスとの唯一のコネクションルート。

どれだけのウソで、彼らは、自分たちの世界の中心に、これを立てたのだろうか。

いや、どれだけが嘘かという話ではない。全てが”嘘”なのだ。”嘘”を世界の中心におき、世界中の人々をだまし、だまし続けるのだろうか。

彼らにとっては、それでいいのかもしれない。何も知らなければ、ややこしいことを考える必要もないのだから。幸せな世界にとどまっていればいいのだ。

―――ただ、僕たちにとっては違う。

ロジは、見えない頂上を見上げていた。ふと、ロジは、その頂上を見たくなった。果てしなく続く、この”嘘”の真上からは、何が見えるのだろうか。

ロジは、登り始めていた。

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